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Research

神経系の形成過程における神経細胞の移動・位置決定および形態形成を司る分子機構の解析

哺乳類大脳皮質形成と神経細胞の移動

大脳皮質を構成する神経細胞は、興奮性・投射性の錐体細胞と抑制性・介在性の非錐体細胞の2つに大別される。哺乳類の大脳皮質の6層構造は、7?8割を占める錐体細胞の並び方がその基本となっていて、それぞれの層は、形態が類似した錐体神経細胞の整然とした並び方で特徴付けられる。各層の錐体細胞は、ほぼ同じ時期に脳室帯で最終分裂を終え(以後誕生すると表現する)、脳表層面に向けて放射状に移動しII-VI層を形成する。その際に、先に誕生した神経細胞がより脳室側に位置し、遅く誕生した神経細胞ほど脳表層側に位置するいわゆるinside-outパターンをとる(図1A)。 妊娠中のマウスにチミジンアナログであるBrdUを腹腔内投与すると胎児の分裂中に細胞に取り込まれる。取り込んだ細胞が分裂を繰り返すとBrdUによる標識は希釈されるが、最終分裂の際にBrdUを取り込むと、BrdUで強く標識され、組織切片を抗BrdU抗体で染色し、同定する事が出来る。大脳皮質形成時においては、BrdUを母体に投与した日がBrdU陽性細胞の生まれ日となる。従って、妊娠中のマウスにBrdUを腹腔内投与し、生まれてきた仔の大脳皮質を抗BrdU抗体で染色する事により、生まれ日と大脳皮質内での配置の関係を明らかにする事が実験的に可能である。

最初に誕生するVI層神経細胞は、自身の突起を使って移動する。このタイプの移動形式はsomal translocationと呼ばれる。これに対し、V層神経細胞以降は放射状グリア細胞の突起を足場にして移動する(このタイプの移動はlocomotionと呼ばれる)3)。そして、VI層神経細胞より脳表層側に位置する。これ以降に生み出されるII-IV層の神経細胞もlocomotionと呼ばれる移動形式をくり返す事により、inside-outパターンのII-VI層が形成される(図1)。この神経細胞の放射状移動の様子は、GFPなどの蛍光タンパク質を導入し、生きた脳スライスを培養下で観察する事により、その移動と形態変化をつぶさに解析する事が可能となった。こうした解析から、このII-V層神経細胞の移動形式であるlocomotionにおいては、移動する神経細胞は、放射状グリア細胞の突起を足場として移動するときに双極型(bipolar)の形態を示すが、その前に一旦多極性(multipolar)と呼ばれる形態を示す事が知られている(図1A)。さらに、神経細胞のlocomotion型の移動においては、まずcentrosome(C)が神経細胞の進行方向に移動し、centrosomeに繋がる微小管の網に包まれた核(N)が引き上げられる事(N-C coupling)が連続的に起きる様子が観察されている(図1B)。


図1A                      B